鶴木 健
花時計公園に面する蔵造りの店、ジュエリーサロン鶴代表。商店と工芸では立ち上げ時より中心的な役割を担う。商店と工芸では実行委員長をつとめる。
渡邉恭子
老舗菓子舗の五代目。京都で菓子職人の修行をした後に家業に入る。商店と工芸では各方面との調整や、特に宵祭の実行に携わる。開運堂常務取締役。
村山謙介
高砂通りにある村山人形店の三代目。商店と工芸の前身となる展覧会を企画し、商店と工芸の立ち上げと運営の中心となる。商店と工芸の事務局を担当。
赤羽 信
女鳥羽川千歳橋近くのオーダーシャツ、スーツのお店'k'not a knotを経営。商店と工芸の事務局として運営に携わる。宵祭での料理作りも担当。
商店と工芸2017
公式パンフレット 対談企画
「工芸の五月」に参加する幾多の企画の中で、「商店と工芸」の特異な点は商店主さんたちの大きな存在。なぜ「商店と工芸」に参加するようになったか。現在の満足点、そして未来への課題など、2013年から数えて5回目となる節目の「商店と工芸2017」に思いを語っていただきたいと思います。
対談メンバー
鶴木 健(ジュエリーサロン鶴 代表・商店と工芸2017実行委員長)
渡邉恭子(株式会社開運堂 常務取締役)
赤羽 信(’k’not a knot 店主)
村山謙介(村山人形店)
対談日2017年4月29日 ジュエリーサロン鶴店内にて
——————商店と工芸の始まりのきっかけ、参加に至る経緯
——————これまでに感じた、起きた変化
——————松本や暮らす人、訪れる人に対しての役割
——————これからの課題と期待
—商店と工芸が始まった経緯
村山:クラフトフェア(※1)の時に松本には大勢の方がいらっしゃる。私が店を構える高砂通りもたくさんの方が駅からあがたの森への往復に歩いています。クラフト作品が好きな方、手仕事が好きな方たちに、自分の店でも松本の作家のものや松本の古い伝統的なものを見てもらえたらいいなと思い2012年に「まつもとの木と布と袋」と「みずののうつわ」を開催しました。
鶴木:あれだよね、クラフトフェア便乗的な、ね(笑)。
村山:そうですね(笑)。松本にもいい職人さんがたくさんいる。それを知ってほしいという気持ちと、ちょうど自分の店が五月人形の展示からお盆にかけて入れ替えの時期で融通ができた、というところでした。それが翌年から、近隣の商店の方と協力して何店舗かでやる運びとなり、名前を「商店と工芸」としてスタートしました。
鶴木:考えてみたらフェアの期間、たくさん人が松本に来てくれているのに本町(※2)としては何もしていない。あがたの森、中町さん、六九さん(※3)には賑わいがちゃんとある。これは本町にも何か企画があって、楽しんでもらって、町の回遊が高まったらいいんじゃないかと思ったんだよね。
村山:開運堂さん、赤羽さん、米澤さん(※4)、大月くん(※5)‥ほとんどその時に、今の運営の中心のメンバーが集まりました。
渡邉:私そんな前から?
赤羽:ちゃんとパンフレットにありますよ(笑)。
—商店と工芸が始まってからの変化
渡邉:開運堂は以前からこの時期は忙しくて、お店の中にいても「ああこの季節だなあ」という実感はありました。ただ、会場に行くこともできないので、ある意味で街はちょっと蚊帳の外というか、意外と地元の人の意識が向いていなかったというか‥。それが商店と工芸が始まってから意識が少し変わって、こういうものも見てほしい、という雰囲気が出てきました。
鶴木:それは我々もそうだったよ。街を歩いている人を見て、ああ、今年も大勢の人が来ているなあ、という。
赤羽:うちも普段とは違うお客さんがお店に立ち寄ってくださってもなかなか接点が持てないところもあったけれど、商店と工芸に参加して、大久保さん(※6)の作品を扱うようになって、お客さんとの距離感が近づき楽しんでくれる人が増えたように思います。
渡邉:ただ、さあやるぞと気構えて始めたというのではなく、なんとなく、自然に参加していたという感じかな。ある意味工芸が町の普段の生活の中にあふれている環境だからこその流れだったかもしれない。ただ、企画や運営の中で知ることも増えたよね。アノアノ散歩(※7)の準備で取材をした時の池田さん(※8)のお話や、小さな頃に聞いた丸山さん(※9)の記憶。鯛萬さんをプロデュースし、女鳥羽蕎麦さんをプロデュースしという、かつて松本を引っ張って行ってくれた人たちの思いを改めて知ることができて本当に良かったと思っています。
鶴木:それが突然宵祭なんてものが始まっちゃって(笑)。
渡邉:あれが本当に(笑)。あとはやめる勇気かな(一同大笑)。
村山:準備が本当に大変(笑)。2014年からですね。けれどあれだけの賑わいがあるから嬉しいですよね。やめられないです。
渡邉:うん。来てくれるほとんどの方が地元の方なのかな。
赤羽:5年経って、本当に多くの方に来ていただくようになったよね。逆に、商店と工芸の知名度が宵祭に負けているというのをどうにかしないといけないよね(笑)。
渡邉:それから、昔からの松本の工芸品や歴史的な名品の紹介は続けていかないといけない。初めて来た人に対しての。
村山:例えば丸山太郎さんと開運堂さんの絵手紙のやり取りとか、木曽屋さんにあるリーチの作品、河井寛次郎の作品。あまりにもお店の人が謙虚に、日常の中に取り入れてらっしゃるから言われないとわからない、という感じもありますよね。だからこそ地元にはこういうものがある。土着の品物があるということを伝えていく役割はあるのかなと思います。
鶴木:忘れちゃったというか、ある一時、ポーンと抜けてるんだよね。みすず細工(※10)にしても箒(※11)にしても、民芸運動の頃は松本のものとしてしっかりとしたものがあるんだけど、その後のものがない。いろいろなものが入ってきて、情報もたくさんになって、町の個性みたいなものが薄まってしまった。
渡邉:時代の背景もあったと思います。経済成長の中で町の人に頼まなくても品物ができるようになった。それまでは近所の人にお願いするしかないからお互いに話もするし、次はこうしてよってなる。それが積み重なって品物も良くなり、見る目も肥えて、町の個性につながっていったんじゃないかな。
—商店と工芸の視点から見る松本のこれから
赤羽:老舗ブランドのリニューアルや新しいお店、30代、40代の方が始める新しいお店にはすごく個性がある。強いこだわりがあって、格好良くて、新しい松本の姿のように感じることもあります。TheSourceDiner(※12)さんだったり、peg(※13)さんだったり。店舗で実際に品物の紹介もしたりする。うちが大久保さんの品物を紹介しているのもそうだけど、店と作家のつながり、人とのつながりの中で新しいものができている。好きな人のものだから紹介したいし、その品物が進化していくのを目の当たりにするのも楽しい。人と人とをつなげていく役割がお店にはあるのかもしれない。
村山:以前の商店と職人の関係が戻ってきている、という感じかもしれないですね。
鶴木:そこに来て、松本らしさってどうなっていくのかね。土地の素材、土地の作り手、独特の技、という要素はあるにしても、それだけじゃない。
渡邉:松本の独特のセンスみたいな‥もの?
村山:松本は城下町の商人の街で、いいものが集まってきた歴史がある。その中で比較があって、培われたムードみたいなものが形になってくるということかなあ。例えば、去年水野さん(※14)とかがやった開運堂さんのショーケースの展示?あれがとても面白かったし、昔の人たちもこうして過ごしていたんじゃないかな、と思いました。そこで今年は大勢の作家さんが開運堂さんのお菓子のことを考えて作品を持ち寄る企画になった。こういうのが続いていったらいいよね。
※1今年33回目となる国内屈指のクラフトフェア
※2本町商店街。松本の中心に位置する
※3あがたの森=クラフトフェア会場 中町=蔵の町並みが残る松本の観光地 六九=六九商店街 近年は六九クラフトストリートで賑わう
※4松本箒の職人
※5安曇野在住の染織家
※6松本在住の木工家
※7工芸にゆかりある商店をめぐるツアー企画
※8松本民芸家具の池田素民氏
※9松本民芸館を創立した丸山太郎氏
※10竹で日用品を編む松本の伝統工芸品
※11松本箒=編み方や地産の箒草が特徴の松本の伝統工芸品
※12松本の飲食店
※13松本の飲食店
※14土岐在住の陶芸
20170429 企画・編集 前田大作